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最高裁判所第一小法廷 平成2年(オ)855号 判決

上告人

葉間田隆一

右訴訟代理人弁護士

木山潔

被上告人

有限会社弘成興産

右代表者代表取締役

葉間田冨枝

右訴訟代理人弁護士

竹田浩二

小野隆平

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木山潔の上告理由について

有限会社の自己持分の取得禁止規定違反による取得の無効は、これを譲渡人から主張することができないと解するのが相当である。所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右判断は所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は採用することができない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三好達 裁判官大堀誠一 裁判官味村治 裁判官小野幹雄 裁判官大白勝)

上告代理人木山潔の上告理由

一 原判決中の、自己持分の取得に関する判断は商法の解釈を誤ったものである。

1 原判決の自己持分の取得に関する判断は、法令の解釈を誤ったものである。右判断は大審院大正一二年七月五日判決や、最高裁判所の昭和四三年九月五日判決にも違反するものである。

つまり、有限会社法二四条一項、商法二一〇条は自己株式の取得を禁じているが、これは、厳格に解されるべきもので、二一〇条において、許容された例外的な場合のみ有効になるのである。

ところが、原判決は、譲渡人側からは右禁止規定違反を主張することが許されないと解釈するのである。

この見解によると右規定は、譲受人との関係では有効であって、買主である会社やその債権者にとってのみ無効であるとの相対無効を認めるものである。

しかし、これは独自の見解であって、法令の違反は明白である。商法の規定は絶対的無効を定めているのである。

原判決は、「ことの形式面のみを理由に譲渡の無効を主張するのは、明らかに信義に反し許されない」とも述べるのであるが、この部分は、右相対的無効性の理解とは相互に矛盾するのである。

なぜならば、相対的無効の概念を認めるというのであれば、後の見解のように「信義則」を持ち出す必要はないのである。

2 本件の自己持分の取得について、その実害の無効性を検討すると、昭和四三年五月二二日の時点においては、被上告人有限会社葉間田鉄工所の有していた売掛金債権が消滅するという、現実の財産の減少があり、被上告人の財産は悪化したのであって、実害があったことは明白である。

なお、同日、被上告人が訴外亡葉間田秀雄に右取得した自己株式を売買したこととなっているが、その代金の支払い方法も定められておらず、現実にも、それから長期間に渡って被上告人が支払う配当から代金が支払われた形式をとっており、自分の将来の利益でもって代金が支払われたもので、自己株式の取得がなされた際には、会社の財産の現実的減少があったのである。

3 訴外亡葉間田秀雄に、上告人の持分を買取るだけの資力があったのであれば、被上告人が持分を取得する必要がないことからしても、本件の自己持分の取得が、会社の財産を減少するものであったことは明らかである。

原判決もまた「訴外亡葉間田秀雄に手持資金が乏しかった」ことを認めている。

二 〈以下省略〉

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